研究概要 |
人間は,力学的に不安定な直立姿勢を視覚や前庭覚などの情報に基づくフィードバック制御によって姿勢の安定化を行っているが,姿勢の安定性を左右する要素には,収縮レベルに比例して増加する筋の粘弾性と外力によって関節を受動的に動作させたときに生じる伸張反射,が存在する.これら3者の間には,何らかの機能分担がおこなわれているものと考えられるが,従来は個別に計測することが不可能であったため,その調節機構は不明であった. 本研究では,これまでに開発した高速機械外乱発生装置を用いて,姿勢制御中の足関節にステップ状の回転外乱を加え,そのときの反力を計測した.同時に,新規に購入した関節角時計で足関節角度を,生体信号増幅器で筋活動を記録し,筋活をもとに伸張反射開始以前の波形を分離した.その伸張反射開始以前の関節角度と反力から,反射の影響を含まない関節の粘弾性特性を推定した.推定値は既報の値よりも小さく,伸張反射の成分が除去されたことが確認された. さらに開眼,閉眼など視覚条件を変えて健常者実施を行ったところ,閉眼時には粘弾性が増加する傾向が認められた.これは,フィードバック情報の減少による安定性を低下を補償するために,高次姿勢制御系が粘弾性の調節を行った結果と推察された.すなわちフィードバック姿勢制御系と足関節粘弾性の両者を統合する制御システムの存在が示唆された.これらの結果は、バイオメカニズム学会において発表し,さらに伸張反射も含めた総合的な解析をすすめる計画である.
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