昨年度までの研究では、柔らかさを損なわず弾性体内部の多自由度変形を計測する新たな素子「音響共鳴型テンソルセル」を提案し、原理確認実験の後 触覚素子として応用可能な素子サイズでの試作・動作確認をおこなった。平成9年度はこれをロボットに実装し、動作させるための設計パラメータの決定を行った。ここでは共鳴のQ値と空洞-音響パス接合部の径の関係、超音波送信子から受信子へ至る経路での音波の減衰に関するデータが実験的に得られた。 また皮膚の柔らかさによってはじめて得られる高度な触知覚能力、特に把持物体の滑りを物体が滑り出す前に予見する能力を解明し、その知覚を実現する研究をおこなった。 人間は摩擦係数が未知である対象をほぼ最小把持力で把持可能であることが知られている。センサが柔らかく対象と広い接触面積を有している場合には滑りの直前に接触面内での応力の偏りが生じ、そのときのシアと等方圧縮成分を同時検出することによって滑りの予知が可能であることを示した。 さらに本年度は新しい研究の方向として、大面積、自由曲面を有するロボット表面にくまなく触覚を与えるための新しい人工皮膚の構成法「テレメトリックスキン」を提案した。テレメトリックスキンとは、微小なセンサチップを成形材料に混同して成形し、センサチップ上の微小コイルを介して無配線でセンサチップへの電力供給とそこからの信号検出をおこなうことによって皮膚感覚を検出するセンサスキンの構成法であり、この技術によってロボット全表面を覆う柔軟人工皮膚が容易に作成可能となる。これまでに触覚情報を検出するためのセンサチップの構造と多数素子の識別・同定法を提案し、電力供給・信号伝達に関する理論的・実験的検討を行った。模擬実験で動作を確認し、現在チップ化を進めている。
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