研究概要 |
近年,ロボットの制御器あるいは形態をも進化的手法により,ボトムアップ的に構築することを目指す進化ロボティクスと呼ばれる分野が注目を集めている.特に制御器をニューラルネットワークで表現し,その構築ならびにシナプス荷重を進化的に獲得する研究例が数多く報告されている.しかしながらこれらの研究の大部分は,学習と進化過程が乖離しており,環境の変動に対する脆弱性,新規能力の獲得時における既存の能力の破壊の問題点が指摘されている. 一方,近年の神経生理学の研究により,シナプス可塑性はNMDA受容体に化学物質が結合することにより行われていること,また互いに非干渉の関係にあった神経回路が,入力に応じて再構成されることも明らかになった.これらの興味深い現象は,neuromodulator(以下,NMと略す)と呼ばれる化学物質の働きによるものと考えられている. そこで申請者は,このNMの動きを工学的に模擬することにより,神経回路の学習ならびに構造を感覚入力(環境)に応じて動的に行う(動的再構成(dynamic rearrangement)と呼ぶ)手法の構築を目指した.本手法の特徴は,進化の対象を『ある状況下での適切なニューロン間の相関(学習)の取り方』としたことである.具体的には,どのニューロンから荷重あるいは結合の変化を司るNMを拡散し,どのシナプスにNMのレセプタを用意するかの決定を進化の対象とした.シミュレーションの結果,シナプス荷重を進化の対象とする従来のアプローチに比べて,より柔軟な能力を有しているとの感触を得た.しかしながら,用いるべきNMの種類の決定が困難であった. そこで,次年度では発生過程を用いて上記の問題点の解決策を図る.また発現する知能は,脳神経系の構築だけでなく,認知主体の身体の構造にも左右される.そこで,身体の構造も併せて決定する手法の構築も併せ行う.
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