本研究では、システムの階層設計を考慮した離散事象システムの設計手法を開発するために、離散事象システムのモデルとしてペトリネットの一つのサブクラスである条件/事象ネットを用い、次のことを行った。 1.まず、設計仕様を階層的に記述する一つの方法を定めた。これは半言語(事象の発生順序を表す形式的な言語)を頂点とする一つのグラフであり、全体の動作が詳細化する順序に依存しないという性質をもつ。次に、この表現法によって記述された仕様に対して、仕様に含まれる各半言語が表す動作を行う条件/事象ネット(サブシステムに対応する)が存在すれば、仕様を満たす条件/事象ネット(システム全体に対応する)が存在することを明らかにした。そして、サブシステムに対応する条件/事象ネットを組み合わせていってシステム全体を表す条件/事象ネットを構成するという一つの構成法を示した。 2.設計仕様を記述するための1.とは別の記述法を提案した。これは半言語の集合上に逐次結合や並列結合などを表すいくつかの演算を定め、それらを用いて記述するものである。1.で定めた記述法がトップダウン式に仕様を記述するのに対して、この記述法はボトムアップ式に仕様を記述するものであり、これら2つの記述法を適宜用いることによって、システムの仕様記述が容易になるものと思われる。次に、仕様に含まれる各半言語が表す動作を行う条件/事象ネットから、仕様に記述された演算順序に従ってネットを組み合わせていき、システム全体を表す条件/事象ネットを構成するという一つの構成法を示した。 来年度は、現在コンピュータ上で構築中である条件/事象ネットを生成するシステムを、実システムの設計に適用し、開発した設計手法を評価する予定である。
|