網膜は時々刻々変化する外界像を並列的に処理する2次元多層神経回路である。こうした網膜神経回路で実現されている視覚情報処理の具体的機構を明らかにするためには、実際の網膜の規模に相当する大規模モデルを用いた計算機シミュレーションが有効な手法である。 一方、数値計算を繰り返し必要とするシミュレーション解析では、その計算時間は研究を行う上で重要な要因である。最近、こうした解析を行う新しいシミュレーション環境として仮想的な並列処理システムであるPVM(Parallel Virtual Machine)が注目されている。PVMはネットワーク上の複数の異機種UNIX WS群の持つ計算能力を一つの大規模計算問題に結集し、処理することが可能である。PVMの性能は、使用する個々の計算機とネットワーク環境に依存し、シミュレーションの計算時間は各計算機の計算時間と計算機間の通信時間によって決定されることから、モデルサイズに応じたPVMを構成する最適計算機数が存在することが予想される。この計算機数を予測できれば、PVMを有効に利用した効率の良いシミュレーションが可能となる。 そこで本年度は、各種通信時間の測定結果を基にモデルシミュレーションの計算時間の定式化を行い、視細胞杆体ネットワークモデルにおいて理論値と実測値を比較することによってその実用性の評価・検討を行った。その結果、提案式によって計算時間が的確に予測できることが確認された。さらに、得られた結果を用いた最適なPVMを構成し、網膜の1次ニューロンである視細胞杆体ネットワークモデルの時空間特性の解析を行った。今後は、本年度の成果を基に、水平細胞、双極細胞を含めた網膜外網状層神経回路のモデル化、シミュレーション解析を進める予定である。
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