研究概要 |
本年度は主として、免疫センサの原理の確認と、蛍光試薬の特性による感度の違いについて検討を行った。このセンサでは、抗体分子を蛍光試薬で修飾し、その蛍光発光の異方性から抗体分子の回転運動速度の変化を測定する。抗原と抗体が結合すると分子サイズが変化し、回転速度が変わるので、抗原を検出することができる。この原理に基づいて、実際に溶液中で抗原と抗体を反応させることで、蛍光異方性に変化が現れるかを蛍光光度計を用いて測定した。蛍光試薬として、FITC(Fluoresceine Isothiocyanate),DNS-Cl(Dansyl Chlodiride),PAS(Pyrene Aceticacid Succinimidylester),NPM(N-Pyrenemaleimide)を用いた。それぞれの蛍光寿命は約4,30,>100,>100[ns]とされている。蛍光異方性の変化は、分子の回転緩和速度と蛍光寿命が近いほど大きく異方性に反映されるので、異なる蛍光寿命の試薬を試みた。各蛍光試薬で修飾した抗体の溶液に抗原を加えたところ、FITCでは異方性に変化が見られなかったが、DNS-Cl,PAS,NPMではそれぞれ14%,63%,83%の異方性変化が測定された。この結果から、蛍光の異方性の測定により抗原と抗体の結合を検出することが可能であることが分かった。この原理に基づくセンサデバイスを製作するためには、抗体分子が基板上に固定化されている状態での検出が望ましい。そこで抗体をガラス基板上に固定化し、同様の蛍光異方性測定を行ったが、基板上に固定化された抗体では、測定にかかる抗体分子の数が溶液中に比べて少ないため、測定感度が低下した。特にNPMでは蛍光強度が弱く、また基板による散乱の影響が大きいため、測定ができなかった。現在、測定光学系にエバネッセント励起を用いることでよりS/Nのよい測定が可能となるよう、光学系の検討を行っている。
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