本研究は、原子間力顕微法(AFM)の原理を用いたエンコーダ(AFMエンコーダ)の製作を目的とする。AFMは原子レベルの空間分解能を持つため、原子の持つ結晶学的周期構造を基準スケールとして用いることによって、原子レベルの分解能を持つエンコーダが実現可能であると考えられる。製作するAFMエンコーダの基本構造は、複数の探針を持つ斥力型AFMである。多数あるプローブ顕微法の中で斥力型AFMはもっとも単純な構造であり、複数の探針を用いた装置の製作が容易である。エンコーダは変位量と変位方向を出力する必要があるため、製作するAFMエンコーダには複数の探針を用いる。探針の複数化によって、基準スケールの周期を内挿し実質的な分解能を向上させる効果が期待される。製作したAFMエンコーダのAFM探針の変位検出には、ライン状に集光する半導体レーザを光源とするマイケルソン干渉法を用いた。これによって、2本のAFM探針の変位を同時に検出することができた。構造を最適化して振動などの外乱の影響を低減したことと、フィルタを用いて電気的ノイズを除去したことによって、現在までに約1オングストローム程度のAFM探針の変位検出が可能となっている。また、フィルタ特性を適切に設定することにより、既知の外乱の影響は受けないことを明らかになっている。今後の課題としては、動作環境に対する耐性を高めることが必要である。エンコーダとしての動作を保証するために、エンコーダが使用される動作環境における基準スケール用試料とAFM探針の相対位置を精度良く制御する必要があり、試料とAFM探針の位置決め精度の向上に取り組んでいる。また、内挿による検出精度の向上を図るために、AFM探針の多数化を試みている。
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