本研究の初年度にあたる平成9年度では、外洋の動的な挙動を取り込んだ東京湾の数値計算モデルの構築と東京湾湾口部における流況・水質観測を行なった。 (1)数値モデル:外洋の動的な挙動が東京湾の流動構造に与える影響を解明するため、デ-夕同化手法と予報モデルの手法を組み合わせた数値モデルを開発した。この数値モデルを利用して1995年12月〜1996年2月における東京湾の海水交換について解析したところ、黒潮や海上風のイベント的な強い変動が、冬期の東京湾の海水交換に大きな影響を与えている事が分かった。黒潮の変動により暖水が湾口部に侵入すると、湾口部での収束下降流が強化され、湾内水の一部は外洋中層に侵入するようになる。また、富津岬近傍での水平的、鉛直的な地形の急激な変化は外洋水の湾内への侵入に対して障害になっており、黒潮の変動に伴う外洋水の湾内への直接的な波及は見られなかった。しかしながら、強い南風が連吹する事によって外洋水は表層で内湾に侵入し、その補償流として湾内水は底層から外洋に流出する。 (2)観測:湾口部での流速・水質観測を行なった結果、黒潮系の暖水が湾口に波及する場合、千葉県側を湾内に向かって侵入し、一方内湾水は神奈川県側を外洋に向かって流出する傾向がある。その際、湾口部を北東から南西方向に伸びる沿岸フロントが明確に発生し、ゴミや泡などの分布状況からそのフロント部において強い収束流が発生している事が確かめられた。また、湾口に波及する暖水の厚さは高々20m程度であり、黒潮の厚さ(200m)に比べると非常に薄い事が分かった。
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