黒潮系暖水の東京湾口および相模湾東部へのイベント的な波及は、例年冬期間には3〜5回の頻度で起きており、我々が観測を行なった昨年度12月〜3月では3回の暖水波及が発生していたことが分かった。従って、この黒潮系暖水の波及が東京湾内の水環境に与える影響を定量的に検討することは非常に重要な課題であると考えられる。我々は、昨年度行なった観測によって、この黒潮系暖水波及時における東京湾口部での流動構造や物質輸送量、および物質輸送特性を明らかにした。 (1) 湾口部における黒潮系暖水波及時には、湾口部は3つの性質の異なる水塊が存在する。それらは、低温・低塩分・高濁度の湾内水、高温・高塩分・低濁度の黒潮系暖水、そして、低温・高塩分・高濁度の沿岸水である。外洋から湾口部へ侵入した黒潮系暖水は、神奈川県側では内湾水の下層に潜り込み、一方、千葉県側では全層に渡って湾内に侵入する。そして湾内水と接する海域では、明確な水温・塩分フロントを形成する。湾内水および沿岸水は、それぞれ神奈川県側の表層および底層を外洋に向かって流出する。冬季東京湾湾口部におけるこの様な複雑な流動構造は、これまでに報告されてきた流動パターンとは大きく異なっている。 (2) この様に複雑な流動構造パターンを示す湾口部における物質フラックスを、観測結果に基づいて計算した。その結果、暖水波及時には平常時にくらべ、単位時間当たり約3倍の湾内への熱輸送があることが明らかとなった。この莫大な熱輸送の大部分を担っているのが水平循環流であり、これまで湾口部にける物質輸送に重要だと考えられてきた鉛直循環流の寄与は非常に小さいことが明らかとなった。
|