本研究では個人の潜在的意識の違い(非観測異質性と呼ぶ)を考慮した動的交通行動モデルの実用化を目指すものである。今年度において、1)新しい交通機関の予測に適する選好意識(Stated Preference:SP)パネルデータおよび、2)実際の交通行動(Revealed Preference:RP)に関するパネルデータを対象に、動的交通行動モデルに非観測異質性を導入する効果を評価してきた。具体的に、1)のSPパネルデータに関しては、SP回答バイアスの修正に着目し、今までモデルの中で区別せずに予測に使われてきた交通機関別の定数項をRPデータにより個人の選択嗜好を表す嗜好項およびSP回答バイアスを表すバイアス項に分離して新たな交通機関選択モデルの定式化を提案した。広島市の新交通システムに関する4時点SPパネルデータより推定したパラメータ値を用いて事後RPデータを予測することによって、モデルの推定精度が高く、時間的移転性も優れたことが分かった。以上の実証結果およびモデル構築のしやすさから、提案したモデルの高い実用性を確認できた。2)のRPパネルデータに関してはまず、JR阿品新駅の利用実態に関するパネル調査データを用いてMass Point手法により非観測異質性を考慮した動的交通機関選択モデルを構築した。つぎに、アメリカのPuget Sound交通パネルデータからTDM施策として注目されている相乗りの利用に関するパネルデータを抽出してトリップ頻度、利用態度を考慮した相乗り参加の同時決定モデルを提案し、さらに、トリップ頻度と相乗り参加に関する共通の非観測異質性をMass Point手法により同時決定モデルの中に取り入れた。両モデルを推定した結果、非観測異質性を考慮した動的交通機関選択モデルおよび相乗り参加の同時決定モデルの適用可能性を明らかにした。
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