本年度は、昭和60年頃から東京都心部に端を発し、周辺の首都圏から大都市圏、地方圏へと、遅れを伴いながら空間的に波及した地価の急騰、及びその後の地価下落のメカニズムを空間拡散問題としてとらえることによって明らかにすることを目的として、以下の分析を行い、新たな知見が得ることができた。まず、都道府県別用途別の地価変動率を用いて、ある都道府県とその他全ての都道府県それぞれとの間の相関係数を相互に時間をずらしながら求めることにより、最大の相関係数を得る時間のずれ(タイムラグ)を算出した。このタイムラグの先に求めた最大相関係数による加重平均値を算出し、ある都道府県がどの程度全国の地価変動に対して先行していたかを示す平均先行年という指標を提案した。この平均先行年は、東京及び首都圏が約2年、近畿圏、中部圏が0〜1年、その他の地方圏が0〜-1年の値を示しており、東京・首都圏を発端として、地価変動が順に地方へと波及したことがわかる。次に、データの潜在的構造を明らかにするのに有用な多次元尺度構成法(MDS)を、都道府県別用途別の地価変動率に適用し、東京及び首都圏が右端に位置し、順に大都市圏、地方中枢都市圏、地方圏が左に位置するといった新しい地価変動波及空間配置を得ることができた。さらに地価変動波及空間配置の解釈を試みたところ、この空間配置は、地方圏の右上部に原点を持ち、原点からの距離が地価変動の標準偏差で、基準となる東京都からの回転角が地価変動の波及における時間遅れとなる極座標系として解釈することができた。最後に、社会科学分野で、勢力圏の分析等に用いられるボロノイ分割と相対関係にある、デロ-ニ-三角要素分割法をこの空間配置に適用し、地価変動波及空間配置における三角要素の分割を得た。今後は、この要素分割構造に対して空間拡散モデルを適用し、地価変動の時空間波及メカニズムを明らかにする予定である。
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