研究概要 |
鉄骨部材の塑性変形を確保するための規定の一つに幅厚比規定がある。本研究はこの幅厚比規定の中に盛り込まれているF値の適切な定義の仕方に対して考察を加えたものである。特に高張力鋼に対して適切なF値(以後,規定応力度)の定義法を確立することを目的とした。また鉄骨部材の塑性変形能力を決定づける鋼材の機械的性質の中で重要な要因は,降伏応力度にかぎるものではないく,特にひずみ硬化勾配,ひずみ硬化開始ひずみ等は部材の塑性変形能力に大きく影響を及ぼす要因であることに着目して研究を進めている。 本年度においては簡単な数値解析を通して,鋼材の機械的性質と板要素の座屈特性との関係についておおまかな検討を加えた。これらの結果から梁の塑性変形能力は構成板要素の幅厚比はもちろん,使用する材料の降伏棚の有無及びひずみ硬化勾配に大きく影響されることを明からかにした。 これらの考察に対する確認及び修正を行なうために,590N/mm^2級高張力鋼を対象として,鋼材の引張試験及ぴH形断面の等曲げ試験を行なった。それらの実験を通して,通常塑性変形能力が期待できるとされている程度の幅厚比のフランジ板要素における局部座屈発生ひずみに対して考察を加えた。その結果その局部座屈発生ひずみを参考にして材料の引張試験結果から得られる応力ひずみ関係を用いて規定応力度の定義法を決定した。 さらに数値解析による数値実験を通して幅厚比を変化させた場合の塑性変形能力を求め,規定応力度を用いて整理した。また,材料の機械的性質に関しても実際のものではかなりのばらつきがあることから,数値実験では機械的性質についても現実的な範囲において若干のパラメトリックな考察を行ない,本研究での方法で定義した規定応力を用いて統一的な塑性変形能力評価の可能性を示した。
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