コンサートホール等の大規模空間では、低音域での音響特性の改善には室の形状の大きな変更を要する。したがって、空間の形状を決定する基本設計段階で低音域音場の予測計算を行うことが不可欠となる。その場合、幾何音響的解析は、低音域では適用できないため、例えば積分方程式法のような波動音響的な解析法を用いる必要がある。積分方程式法では、均一の材料で構成された壁面では、その壁面上に境界面をとることが出来る。しかし、座席面は形状が複雑で、且つ各種の音響特性をもつ面により構成されており、これを細かく分割し境界条件を個別に与えることは事実上不可能である。そこで、本研究では、座席面を一様なインピーダンスを持つ仮想的な吸音面(仮想吸音面)として扱う方法を提案する事を目的とした。 今年度は、2次元音場において、座席面を、剛な床面上に吸音体が周期的に置かれた状況と考え、その周期的定常音場を積分方程式法を用いて計算した。さらに、吸音体列の上部近傍の音圧、粒子速度からインピーダンスを計算し、その分布を詳細にみることにより、「仮想吸音面」を導入した近似の妥当性、適用可能な周波数域の検討を行った。その結果、低音域においては、吸音体列を座席と見なした面を「仮想吸音面」として取り扱える可能性を示すとともに、限定された条件下ではあるが、吸音体そのものの音響特性と剛床面との幾何的関係から「仮想吸音面」の特性を決定する方法についても明らかにした。 座席面を吸音体列と見なして計算した音場と、「仮想吸音面」で近似して計算した音場を比較し、音源が平面波の場合、垂直入射に関しては良好な一致が得られた。斜め入射に関しては面から離れた領域では両計算値の差は大きくなるが、面に近い領域では十分に一致した。また、「仮想吸音面」の導入によって、必要とされる計算機容量、計算時間も大幅に削減されることが明らかになった。
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