これからの医療施設計画を考えるにあたり、産科に注目してお産の文化的・社会的背景を考慮して研究を行った。 神戸市のM助産院(3床・助産婦3名)にて過去2年間に出産を行った産婦のうち、出産体験を記したものの中から、病院でなく助産院を選択した理由について、主に療養環境の観点から分析を行った。その結果、産婦が出産を日常的な空間(周辺からの生活音、院内での調理や会話の様子、住宅的なしつらえ、医療用でなく家庭用の什器、適度な暗さ等)で行えることに対して積極的に評価していることが判明した。同時に施設規模(小ささ)や、規則への柔軟な対応等も病院と比較した上でプラスの評価であった。 本研究と平行して行っている海外(バングラデッシュ、スリランカ、フィンランド、オランダ)での出産場所に関する評価研究では「安全」と「くつろげる環境」への欲求が、選択行動の二極対立軸にある。しかしいずれの文化でも「安全」が確保された上で、家庭的環境を望んでいる。本研究でも、日本国内で1%未満の病院外分娩ではあるが、安全を望みつつも病院的でない出産環境の確保を望む層が、住宅的しつらえを希望していることが判明した。 産科という、多くは疾病でない分野を扱う科を皮切りに、病院建築のあり方についての指針を得ることができた。同時に療養型病床群、急性医療の分野にもとり入れることができる提案が、この出産環境の研究で見出すことができた。
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