本研究では、昭和30年代以前の長期経過集合住宅のいくつかを対象として、居住者や居住者組織による住環境、特に共用空間の維持・運営の実態の構造を明らかにし、経年的に変化していく集合住宅の住環境の運営計画の在り方を検討することを目的としている。本年度の研究においては、特に、公的集合住宅(同潤会、地方公共団体、不良住宅地区改良法、公営住宅、住宅供給公社、日本住宅公団)が建設された社会的背景と計画的意図、そしてその運営状況を解明するために、以下のような文献調査・実態調査を行った。 戦前のものについては、内務省・厚生省・同潤会・住宅営団・東京市に関する公的資料(若干の内部資料を含む)をもとに、建設当初に計画されていた、建物と居住の管理計画をできる限り明らかにした。また、戦後のものについては日本住宅協会が昭和27年から発行している機関誌『住宅』を中心に、戦後、集合住宅がどのように社会に受け入れられつつ建設されていったかを把握した。さらに、戦後の公的集合住宅供給でこれまであまり研究されていなかった公社住宅建設の1例として、昭和27年に発足した神奈川県住宅供給公社をとりあげ、昭和22年に住宅営団関係者を中心に組織された「県庶民住宅復興対策委員会」を中心に約5年間かけて同公社が設立された経緯を明かにした。 また、こうした文献調査以外にも、実態調査として、任意の研究グループ「同潤会代官山アパート研究会(主査:高見沢邦郎東京都立大教授)」「同潤会江戸川アパートメント研究会(主査:伊藤直明早稲田大教授)に参画し、両アパートの戦前から戦後にかけての住宅の運営に関する居住者組合資料、町内会資料を分析し、集合住宅における多様な住環境運営の実態を明らかにした。
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