アジア大都市圏の国公有地スラム・スクォッター地区の再生策には、(1)「民営化・民間活力導入」や「小さな政府」という1980年代の社会経済政策が強く影響している民間デベロッパー参加型のタイプと(2)1970年代半ばから途上国住宅政策上の中心となってきたコミュニティ組織や住民の自助による改善の延長としてのコミュニティ参加型のタイプの二つがある。前者の典型がソウルの合同再開発事業やクアラルンプールの国公有地民営化開発であり、後者はフィリピンのコミュニティ抵当融資事業やバンコクの土地分有事業に代表される。前者は公共側が立ち退き問題や家賃値上げなどの事業実施に伴なう住民批判に対する「隠れ蓑」として活用された側面も強い。また、前者は事業内のクロスサブシディ(内部補助)により従前住民のための住宅を整備するため、事業条件がその成否を左右する。ソウルの合同再開発はクアラルンプールの民営化開発に比べて、従前世帯密度、国公有地比率などの事業条件が厳しく、従前世帯の定着率は極めて低くなった。一方後者についてみると、土地分有事業の場合は必ずしも政府の積極的な介入支援がなく、スラム住民の居住権が保証されるかどうかは地主の意向に左右され規模的な広がりがみられなかった。これに対してコミュニティ抵当事業の場合は、地主が代替となる住居を提供しない限りクリアランスできないという大統領令が地主に対する交渉力となり、併せて用地取得のために抵当融資を提供したことで事業が拡大した。
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