社会経済発展が一定水準に達した東アジア大都市圏を中心にして、1980年代以降、過剰都市化時代に膨張したスラム・スクォッター地区の更新が本格化しつつある。本研究では東アジア大都市圏において実施された国公有地スラム・スクォッター地区の更新事業、とりわけ民営化による地区再生事業に着目して、当該事業手法の可能性と限界、またあるべき地区再生方策のあり方を明らかにした。 民間デベロッパー参加型の民営化開発(ソウル・クアラルンプール)では民間デベロッパーの資金や技術力・開発ポテンシャルを活かすためのノウハウなどを活用することができ、最大化した開発利益を従前スラム住民のための住宅建設費用の一部に内部補助できる利点がある。しかし、開発条件(従前世帯密度・立地・国公有地の払い下げ価格など)によほど恵まれない限り、借家世帯を含めて従前スラム住民が負担可能な範囲で住宅を取得するのは難しい。民営化開発を採用するとしても、低所得の借家世帯には公営住宅を提供するなど公的支援は必要となる。バンコクやマニラにおける民営化開発は住民参加に基づく事業方式を採っている。この方式の利点とは住民の意思決定や整備水準が尊重され、それだけ従後の定着率が高くなる。しかし、1世帯当たりの平均敷地面積が20〜50m^2といった高密なスラム・スクォッター地区では住環境の改善には限度がある。この場合、公的地主は土地の長期借地権を譲渡することで、将来の恒久的な地区更新に備えることが望ましい。スラムの地区更新を実施する場合には、地区条件や住民の社会経済基盤に十分に配慮して従後も住民が定着できるような手法を検討し、かつ実施のタイミングを調整することが必要である。恒久的な地区更新までの過渡期においては基本的な住環境改善を施し、貯蓄組合の結成など社会経済基盤の強化をはかることが望まれる。
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