建築は一般に空間技術の非再現芸術或いは形式芸術に分類され、通常は絵画や彫刻のように具体的な物を再現することはない為、人間の持つ空間観をあらわに映し出してきた歴史遺産と考えられる。音楽もまた同様に時間芸術の形式芸術に分類され、数多く残された音楽作品にはそれぞれの時代の人々の時間観が映し出されている。人々がこれらの空間と時間をいかに認識し観測していたかは時代によって異なるが、その変化の経過には空間と時間とで何らかの共通性があるのではないかという考えが本研究の発端であった。本研究は、同時代の建築と音楽を比較する上で、空間観と時間観の変化の並行性により、建築と音楽の変化に何らかの並行性を見いだそうというものである。 本年度は昨年度に引き続き、無限の空間や時間を意識したと考えられる作品の出現時期を探るため、建築における凹曲面外壁が現れた時期、その地域的分布、及び、音楽における弱起の曲の発現時期、テンポの変化などについて考察した。さらに、建築と音楽で用いられた尺度の体系についても考察した。その結果、16世紀までは建築も音楽も全体の長さを分割することによって各部の長さを決定したが、その後、分割してできた基本単位を倍加させて各部の長さを決定させるようになったことが指摘できた。 当初の研究計画ではこの成果を日本建築学会にて発表する予定であったが、その後、論文集(図書)の中の1編として発表する機を得たため、予定を変更し、学会での発表は行わなかった。論文集は1998年秋に出版予定である。 なお、この研究のための書籍、研究に際し必要となった消耗品(文房具類)は本年度の補助金より購入した。また、資料収集のための図書館登録費用(国立音楽大学付属図書館)も本年度の補助金よりまかなった。
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