アジアのスペイン・ポルトガルの植民地の建築に関する研究は、他のヨーロッパ諸国の植民地に比して希有な状態にある。従って、既存の研究やそれに伴う研究資料も極めて少ないといえる。しかし、建築以外の分野では、大航海時代の歴史として多くの研究翻訳がなされており、これらは本研究にとっても有効な資料となり得る。しかしながら直接建築の形態を知ることのできる図版資料を得ることは、極めて困難であった。アジアにおけるイベリア植民地の中心であったマカオにおいて、嘗ての図版資料の極一部は、ポルトガルの海外公文書館、リスボン地理院および海軍資料館に保管されることを確認している。しかし、今回の国内の調査では、日本にもマカオ同様に存在しないことが明らかになった。但し、マカオの分についてだけは東洋文庫及び東京大学東洋文化研究所に所蔵される。現在、特に「南アジア伝導教団資料集成」とオランダの入植時の資料について調査整理を進めている。 また、ポルトガルの植民地に関する資料としては、「ト-レ・ド・トンボ公文書館古文書集」や「東洋ポルトガル古記録」があり、ボクサ-博士のポルトガル海外発展史の研究やインドとの経済関係を中心とした研究を行ったピアスン博士の業績が上げられる。この中に触れられる建築関係の記述と、日本で松田毅一博士らによって進められる宣教師記録の検証を次年度に進める予定である。これらによって、嘗てのポルトガルのアジアにおける海外県の建築活動についての資料調査は、インドのゴア公文書館を除いて終了することになる。
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