アジアのスペインポルトガルの植民地の建築に関する研究は、他のヨーロッパ諸国に比して希有な状態にある。当該分野においては英国の研究が抽んでおり、続いて仏、独、蘭などが近年大きく躍進している。しかし、西・葡については、植民地であった国々独自の研究および本国共に少ないか、ほとんど成されていない状態にあった。本研究にあたって、事前にスペイン・ポルトガル・マカオの各公文書館等の調査は進められていたが、史料の整理自体が現在も進行中の状態であった。例外的に、日本国における、いわゆる大航海時代の研究が建築以外の分野で進められている。その背景には、東洋文庫や東京大学に保管される当該分野の豊富な関係資料の存在が上げられる。そこで本研究では、日本国における既往の研究とその史料の建築に関する部分の再検討とこれまでの調査で収集した所在一覧を整理しアジアの植民地建設関係資料の総覧の作成を試みた。そして、最終の考察として、植民地建設における建築様式の変遷過程を体系的な分類から得られた見地として加えている。本調査の成果における意義は、第一に当該分野の史料の所在と種別がインドのゴア公文書館の分を除いて明らかになること、第二にこれまでまったく明らかにされなかったスペインとポルトガルの植民地建設の過程とその様式変遷についての一部が解き明かされることである。残された課題は、前述のインドに保管される史料および中南米の植民地の分がのこるが、後者に関してはアメリカの研究機関の調査が進められているので、それと参照が有効である。また、第二の意義については、本国の建築様式の研究自体が不十分なことと関連して断片的なものとならざるをえないが、両者の研究進展の契機となることが期待されるものである。
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