本年度は、電子エネルギー損失分光法(EELS)の内殻電子励起スペクトルの精密解析と、EELSを応用したエネルギーフィルタリング法により、Ti_<50>Ni_<48>Fe_2合金のマルテンサイト変態の機構に関する研究を進めた。 1. 内殻電子励起スペクトルの精密解析 母相とR相からそれぞれTiとNiのLエッジを測定し、相変態に伴う強度変化を解析した。ここでは精度の高い解析を行うために、deconvolution法を用いて多重散乱効果を解析的に除去した。その結果、R相変態に伴い、Tiの3dバンドの非占有状態密度は僅かに減少し、逆にNiの3dバンドでは非占有状態密度が増加することを確かめ、更にここで起こるNiからTiへの電荷移動は0.01〜0.1electron/atom程度のごく僅かな量であることを示した。以上により、典型的なマルテンサイト変態の一つであるR相変態の際に、TiとNiの3dバンドの間に僅かな電荷移動が起こるという電子状態の変化を実験的に示した。 2. エネルギーフィルタリング法によるR相変態前駆現象の研究 EELSのエネルギー分散機能を利用して、エネルギー損失の無い弾性散乱電子のみを用いて電子回折図形を得た。これによって、従来弱い散漫散乱の観察を妨げていたバックグラウンド(非弾性散乱電子による)を効果的に除去することができ、変態直前の母相の構造揺らぎを詳細に評価できるようになった。具体的には、変態前の母相の電子回折図形には、基本反射をほぼ三等分する位置に非整合な散漫散乱が生じ、その強度は変態点に近づくほど強くなることを確認した。また消滅即の考察により、この散漫散乱は母相の構造が比較的単純な横波型格子変調を受けることによって生じるということを明らかにできた。
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