研究概要 |
酸化物中に遷移金属不純物が固溶した物質は,多重項間の遷移を利用してレーザーなどの光学材料に応用されているが,対称性の低い系にも適用できるような多重項の一般的な解析方法はこれまで存在しなかった。本研究ではDV-Xα法により計算した分子軌道を用いて多電子系の波動関数を構築し,これらを基底として多電子系のハミルトニアンを対角化する事により,多重項のエネルギーを第一原理から求めるプログラムの開発を行った(Discrete-Variational Multielectron Method,DV-ME法)。また比較のために,配位子場理論とDV-Xα法を組み合わせて多重項のエネルギーを計算するプログラムの開発も行った(DV-LFT法)。まず,これらのプログラムの有効性を確認するために,Oh対称のMgO,KMgF_3中に固溶したV^<2+>,Ni^<2+>イオンについて多重項の第一原理計算を行ったところ,光吸収スペクトルのピーク位置を良く再現する事ができた。しかしながら,両者の計算結果を詳細に比較すると,特に1重項,2重項などにおいてDV-ME法の計算結果の方がエネルギーが低くなり,実験値に近づいている事が分かった。これは,DV-LFT法では分子軌道を原子軌道で近似しているのに対し,DV-ME法では分子軌道を直接計算に用いるため,電子間反発エネルギーをより正確に計算出来る事を示している。さらにDV-LFT法がOh,Tdなど高い対称性の系にしか適用できないのに対して,DV-ME法では任意の対称性の系に対して多重項の第一原理計算を行う事が可能である。この特徴を利用して,α-Al_2O_3中に固溶したCr^<3+>,V^<3+>イオンについて,C_3対称およびOh対称で近似した場合について多重項の第一原理計算を行い、結果を比較することにより,不純物準位の波動関数の空間的な広がりや歪みが多重項構造に与える影響を定量的に評価することが出来た。
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