希土類含有ガラスは、赤外光の多段階吸収により、励起光よりもエネルギーの高い可視光や紫外光を発するアップコンバージョン発光を示すことから、赤外-可視・紫外波長変換材料として新たに注目を集めている。これまでに報告されてきたアップコンバージョンプロセスの多くは単一励起波長によるものであり、この過程で強い発光を示す希土類イオン-準位-マトリックスの組み合わせは極めて限られていた。しかし近年、光増幅器におけるポンプ光と信号光に見られるような二波長励起デバイスが実用化される一方、半導体レーザーの開発により励起光として得られる波長が広がっており、二波長以上の励起光源を用いることにより、希土類イオン-準位の組み合わせの拡大とアップコンバージョン発光の効率の向上が可能であると考えられる。本研究では、まずこ速度定数を電気双極子遷移に関するJudd-Ofeltの理論や多フォノン緩和に関するMiyakawa-Dexterの理論を用いることにより半経験的に計算し、高い効率を示す二波長の励起光源を用いたアップコンバージョン過程を予測し、希土類含有ガラス中の二波長励起アップコンバージョン発光の測定により検証を行った。 これまでの成果として、希土類含有ガラス中でも比較的高い発光効率を示すことで知られる、ZrF_4系のガラスにTmF_3をドープしたガラスについて、遷移速度定数として輻射遷移速度、多フォノン緩和速度を求め、レート方程式を解くことにより、この系において理論的には650nm単一波長励起と比較して、650nmおよび792nmの二波長の励起を用いることにより理論的には約40倍の451nmにおけるアップコンバージョン発光が得られることを明らかにした。これを実験的に検証した結果、約9倍の発光強度が得られ、定性的には二波長励起による発光強度の増大が示された。
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