本研究の目的は、特に配向性を示す結晶化ガラスを対象としたガラスの表面結晶化の初期過程をAFMで観察し、さらに中性子回折などから算出されたガラスの構造を基に、分子動力学法を用いて結晶化過程をシミュレートし、表面結晶化過程を解析することである。Li_2O・2SiO_2結晶化ガラスのAFM観察において、結晶化初期を想定した熱処理条件で結晶化させたガラスの表面を調べたところ、結晶子の大きさが20〜40nmの結晶が表面部分で析出していることが観察された。一方、一般の熱処理条件では、結晶が表面で大きく成長していた。初期状態の粒子が結晶かどうかを調べるために作成したガラスの表面を観察したところ同様な粒子が観察された。Li_2O・2SiO_2は、大気中では、水分や二酸化酸素と反応しやすく、熱処理を行わないガラス表面上にも、数十nmの径を持つ粒子が観察された。さらに、そのガラスを熱処理し結晶化させた表面をAFMで観察すると、同様な粒子が見られ、その粒子が結晶析出を起こしているかどうかはさらなる工夫が必要であった。また、CaO・Al_2O_3・2SiO_2ガラスの中性子回折測定と、分子動力学法によるガラスの構造モデルを動径分布関数で比較したところ、安定相である三方晶アノーサイトよりも、結晶化初期段階に析出する準安定相である六方晶アノーサイトにより近い構造であるという結果が得られた。他の手法でガラス構造をより精密化しなければならないが、結晶化初期段階の構造とガラスの構造が近いという非常に興味深い結果が得られた。さらに、MO・Al_2O_3・2SiO_2(M=Ca、Sr、Ba)の分子動力学シミュレーションも行い、カチオンの大きさによる六方晶の結晶構造の安定性を比較したところ、Mのイオン半径が大きい程、六方晶構造の安定性が高いという結果が得られ、この六方晶の構造の安定性が結晶化初期段階に重要な役割をしていることも見出した。
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