研究概要 |
本年度は水熱法によって生成する,基板-膜界面の反応層を積極的に利用して,多層膜・選択して合成実験を行った。基板であるチタニウム金属箔を、Ca、Ba、Pbのいずれかを含む無機塩の水溶液と、KOH水溶液とともに100°C以上で加熱して反応させた。各系における、基板上での生成相およびその生成条件を明らかにし、反応後に溶液内に残留する金属イオンの濃度を測定した。つぎに、膜を形成させた基板に対し、多層膜を形成させるための実験条件を探索した。 その結果、良好な付着力を得るには、基板と膜、(下層)膜と(上層)膜の間に化学反応を介した結晶核形成を起こさせることが、有効であることがわかった。基板あるいは下層膜表面に付着力に富んだ結晶核を生成させるには、基板あるいは下層膜の組成の一部が溶液中に溶出する一方で、核形成の場である基板本体や下層膜の骨格を形成する物質はその形態を保っている必要がある。基板の溶解条件や下層膜の生成条件をその「溶解しやすさ」=「反応しやすさ」という観点からも検討したところ、この「溶解のしやすさ」が直上に目的とする膜を生成させられるかどうかを左右していることが明らかになった。 本研究では、当初、目的とする結晶核の生成の可能性の有無を、均一系の平衡論に基づいた熱力学的なモデルから推測しようと試みた。しかしながら、系内のどこで核生成が生じても目的生成物を得られる可能性のある粉体の場合と異なり、膜の場合は、基板上あるいは下層膜表面という特定の場所に目的の物質を析出させなければならないので、来年度は不均一系、しかも速度論を加味したモデルの構築とそのための基礎データの収集を行うことになる。具体的には、反応系内での溶液の化学組成や、固体の相組成の経時変化を扱うことが必要であろう。
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