水熱法により付着力が良好な多層膜を得るには(下層)膜と(上層)膜の間に化学反応を介した結晶核形成を起こさせることが、有効であるという昨年度の結果をもとに、基板直上に析出する膜の反応性を調べるため、いくつかのチタン酸塩が単味で析出する条件の探索をおこなった。また、種々の合成条件における出発原料や生成膜の溶解量を測定を試み、基礎的データの収集した。 まず、基板であるチタニウム金属箔を、Sr、Ba、Caの各塩化物水溶液およびKOH水溶液とともに100℃以上の水熱条件下で反応させることにより、基板上にSrTiO_3、BaTiO_3、CaTiO_3を成膜した。各系における、基板上での生成相およびその生成条件を明らかにし、反応後に溶液内に残留する金属イオンの濃度を測定した。さらに、生成膜の反応性の指標として、SrTiO_3およびCaTiO_3に関しては、成膜させた基板を種々の濃度のKOH溶液中で水熱処理を行い、液相中の溶質濃度を測定することにより、各条件における膜の溶解度を推定した。 その結果、不純物の析出しない成膜条件として、各物質に対して原料塩濃度に最適値が存在することがわかった。特にSrTiO_3の系では、反応温度が高く、KOH濃度が高い条件では、SrTiO_3、と共にSr(OH)_2が基板上に析出した。膜の溶解実験では、SrTiO_3では溶液温度が高く、KOH溶液の濃度が高いほど液相中へのストロンチウムの溶出量は多かった。これに対し、CaTiO_3では溶液温度が高いほどカルシウムの溶出量が多くなったのは、SrTiO_3と同様であったが、KOH濃度が高い場合はカルシウムの溶出は認められなかった。 合成条件による不純物相の生成は、膜と原料の溶解度との関係から説明が可能であり、膜の反応性を明らかにすることにより、多層膜の合成条件の決定が容易となることが期待できる。
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