界面活性剤ミセルはその可溶化機能により内部の極微小環境に疎水性物質を安定に保持できることがよく知られている。このような可溶化ミセルを鋳型に用いれば、ミセルの周囲に酸化物骨格が成長して形成された細孔内には可溶化された物質がミセルごと包含され、分子レベルで複合化した新規な多孔体が得られると期待される。このような着想に基づき、本年度は疎水性蛍光プローブなどを利用してMCM-41中の可溶化物質の存在環境を評価するとともに、疎水性の金属錯体を可溶化したミセルを鋳型とすることにより、これらの物質を分子オーダーで取り込んだ新規複合多孔体の合成を試み、以下の成果が得られた。1)界面活性剤ミセルに疎水性蛍光プローブを可溶化し、これを鋳型としてシリコンアルコキシドの加水分解を行うことにより、得られるMCM-41中での可溶化物質の存在環境を評価したところ、可溶化した物質はMCM-41の細孔壁に予想されるよりもかなり疎水性の強い環境に置かれていることが明らかとなった。可溶化したテトラフェニルポルフィンの吸収スペクトル変化などからも、可溶化物質はMCM-41の酸化物骨格中ではなく直径30〜40Åの細孔内部に位置していることが確認された。2)フェロセン(Fc)などの疎水性物質を可溶化した鋳型ミセルを用いることにより、鋳型ミセルごと可溶化物質を包含したMCM-41メソ多孔体が合成できることを明らかにした。3)Fcを包含したMCM-41を焼成したところ、310nmに鋭い吸収ピークが現れ、細孔内部で生成した酸化鉄超微粒子による励起子吸収が示唆された。また、細孔内でPd超微粒子を成長させたところ、円筒状細孔の内部で一次元的に成長した異方性Pd超微粒子が配向したMCM-41複合体が得られた。有機分子の自己組織機能を利用することにより、ナノサイズの規則化構造を無機材料の内部に形成することが可能であると考えられる。
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