研究概要 |
合成時にアクリル酸(AA)のようなカルボン酸モノマーを添加したMn^<2+>ドープZnS(ZnS:Mn)半導体の光特性に関して追究した。その結果、カルボン酸添加ナノクリスタル(NC)の発光強度がMCや無添加NCよりも大きいことを発見した。カルボン酸は合成時から発光過程まで多岐に渡る役割を果たすが、特にAAのZnS:Mnへの配位状態の解析を中心にして発光強度増大の原因を検討した。 TEM観察から合成NC粒子は等軸状であり、その粒径は添加物の有無に関わらず3〜4nmである。X線回折測定によると、結晶構造はzinc blende型であり、結晶子の大きさは粒径と一致することがわかった。AA添加NC試料の発光は2.14eV(580nm)に観察され、その強度は無添加NC試料および粒径0.5μmのMCよりも大きかった。励起スペクトルのピーク位置は、MC、無添加NC、AA添加NCの順に3.61、3.67,3.77eVのように増大した。これは、粒径の減少によってZnSのバンドギャップ(E_g)が増大したことと、AA添加によって粒子同士の接触が妨げられて量子閉じ込め効果がより顕著に現れたこととに起因する。ZnSのE_gに相当する光を吸収し、緩和するときに解放されるエネルギーがMn^<2+>に移動してd-d遷移による発光が起こる。選択律に基づくと対称的に6配位した状態ではd-d遷移は禁制であるが、SがMnに4配位した状態(対称心を持たない配位状態)ではdとp軌道の混成がある程度起こり、d-d遷移が多少許容される。AA添加NCではMnの配位子場の対称性が低下するため、d-d遷移確率が増大する可能性がある。また、PAAはZnS:Mnの励起と同一波長の光によって励起され、吸収したエネルギーがZnSを経由してあるいは直接Mn^<2+>に移動して発光強度を増大させることが強く示唆される。
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