高分子材料は、その強度や耐久性の評価データのばらつきが大きいことが多いため、構造材としての信頼性を得ることが難しく、強度が重要視される分野へ積極的に適用されることは少ない。申請者は、高分子材料が大気中の湿度変化にによって常に水分の吸着・放出を行っていることから、大気中の水分が高分子材料の機械的性質に強い影響を及ぼしていると考えた。 そこで、本研究では、一般的な熱可塑性高分子材料であるPMMA試験片に十分な湿度調整を行い、含有水分量の違いによる様々な機械的性質の変化を調べた。その結果、以下のことが明らかとなった。 1. 引張試験を行い塑性変形領域における各応力での塑性変形量を測定した結果、水分量が多くなるにつれて、単純に塑性変形量が増加するのではなく複雑に変化することがわかった。塑性変形域における変形に対する水分の影響は、弾性変形・擬弾性変形・塑性変形のそれぞれに対する影響の和として現れているため、単純に求めることはできなかった。また、塑性変形形態の一つである表面クレイズの観察結果から、塑性変形と湿度の関係が複雑であることが示唆された。 2. レーザー顕微鏡下における、疲労き裂進展過程の観察結果より、疲労き裂進展がき裂先端クレーズ中で起きていることが分かった。この結果より、湿度によるクレイズの機械的性質の変化が疲労き裂伝播挙動に強い影響を及ぼしていることが示唆された。 以上の結果から、大気中の水分が高分子材料の破壊・疲労挙動に無視できない影響を及ぼしていることが明らかとなった。試験中だけでなく保管時の湿度調整をきちんと行うことによって、データのばらつきをかなり抑えられることが分かった。
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