研究概要 |
電気化学的成膜法(電析法・無電解析出法など)は,均一成膜性や単原子層レベルの選択析出などの精密成膜が原理的に可能であるが,析出過程が複雑で不明点が多いため,機能薄膜分野で広く用いられるには至っていない.そこで本研究では本手法による薄膜析出過程を素過程レベルで解析すると同時に形成された膜の機能発現機構を解明することにより,本手法による薄膜の機能・微細構造の設計指針を確立し,機能薄膜材料分野に新たな可能性を拓くことを目的としている. 本年度の研究により得られた成果は以下のようにまとめられる.まず無電解析出反応に用いられる代表的還元剤であるジメチルアミンボラン(DMAB)を対象に,非経験的分子軌道法を用いて析出反応素過程の解析を試みた.DMABの反応過程は,従来中間体として三配位構造をとる説と五配位構造をとる説が提案されていたが,本検討の結果,後者,すなわちアキシャル位に水酸基が配位したバイピラミダル構造を経る方がエネルギー的に安定であるということを明らかとした.さらにこの五配位化合物ではジアニオンよりもアニオンの方が安定であることを確認し,このことから水酸基の配位と同時に電子を放出することが予想された.さらにこのような反応の金属(すなわち析出素地)表面での進行についても基礎検討を行い,表面への特異な安定吸着構造を見出すなど,次年度への足がかりを得た. 次に,このような反応を触媒する析出表面における活性サイトの膜形成プロセスへの影響について,原子間力顕微鏡(AFM)を用いた解析を行った.この検討には無電解NiP薄膜系を用い,ポリイミド基板表面へのPd触媒活性サイト形成状態を種々変化させてAFM観察を行った.その結果,膜成長状態は析出基板表面における活性サイトの分布密度に大きく影響され,またその影響が数百nm厚程度まで及ぶことを明らかとした.
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