研究概要 |
鉄などの金属材料の局部腐食,特に前駆過程の発生機構には不明な点が多い。本研究は,溶液環境中で金属表面を覆う不働態皮膜に対して,攻撃性アニオンを打ち込むことのできる"液中イオン銃"を新たに開発し,局部腐食前駆過程の解析に適用することが目的である。本年度は,液中イオン銃の開発を試み,液中イオン銃によって実際に鉄不働態皮膜の破壊が起きるかを検討した。 1.液中イオン銃には,直径200μmの銀線をガラス管に封入し,先端をディスク状に研磨した微小電極を用いた。これを1Mの塩酸中で酸化と還元を分極により繰り返して銀/塩化銀電極とした。塩化銀は難溶性の塩あるが,カソード分極することにより,液中イオン銃の電極チップから塩化物イオンを発生することができた。 2.被測定物である金属試料の電極電位を制御するため,および液中イオン銃を作動させるために,当研究室で開発した走査電気化学顕微鏡を応用した。すなわち、バイポテンショスタットを用いて試料電極および液中イオン銃の電位の制御と電流の検出を行い,コンピュータにより制御された走査ステージに液中イオン銃を取り付け試料電極との距離を制御した。 3.鏡面研磨した鉄試料表面に,0.1moldm^<-3>の硫酸溶液中,1.2V_<SHE>で定電位アノード分極することにより不働態皮膜を作成した。引き続き,試料電位を1.2V_<SHE>に保持したまま,試料電極表面の上方約200μmに配置した液中イオン銃を電位掃引速度2mVs^<-1>,掃引範囲0.4V_<SHE>〜-0.8V_<SHE>でサイクリックボルタンメトリーを行った結果,1回目のカソード分極中,電位の減少にともなって試料電極電流が増加した。特に,約-0.6V_<SHE>以下の電位領域では,電流の急激な増加と減少を繰り返した。この現象は,不働態皮膜の局部的な破壊と修復に対応するものであり,液中イオン銃によって発生された塩化物イオンによて誘導されたものと示唆された。一方で,液中イオン銃をアノード電位に分極した場合には,試料電極電流は一定であり,この間には不働態皮膜の破壊は起こらなかった。 以上のように,液中イオン銃を用いて鉄不働態皮膜の局部的な破壊を誘導することが可能であることが明らかとなった。次年度では,溶液種,pH,不働態皮膜の膜厚などの条件を変えて実験を行い,より詳細な局部腐食前駆過程の発生機構の解析を行う予定である。
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