研究概要 |
本研究は、単結晶Si上に蒸着したAg,Cu,Alエピタキシャル膜中に存在する小傾角粒界を比較的低温で消滅させる方法としてイオンビーム照射を用い,薄膜の結晶性の改善を試みるものである。 本年度は,Ag/Si(100),Ag/Si(111)およびCu/Si(100)について,主としてイオンビーム解析を用いて実験を行った。 その結果、高エネルギーの重イオンを用いて、膜全体に一様な衝突が起こるような条件で200°C,室温および液体窒素温度下照射したところ,何れの場合も結晶性が改善されることが分かった。 さらに,液体窒素温度において,照射イオンのイオン種とエネルギーを変え,電子的エネルギー付与値が一定となるように照射し,結晶性の変化を調べたところ,照射イオンの核的エネルギー付与値が大きくなるほど良好な結晶性が得られることが分かった。 一方,核的エネルギー付与値が一定となる条件で照射した場合は,結晶性の変化はほとんど観察されなかった。 これらのことから,本研究での結晶性改善が,照射イオンと薄膜構成原子との弾性衝突の結果生じる原子の再配列に起因するものであると結論した。 また,Ag/Si(100)については,低エネルギー重イオン照射で深さ方向において損傷の分布ができる場合でも,深さ方向に一様に結晶性が改善される興味深い現象を見出した。 この現象は,重イオン低エネルギーイオン照射を用いることで,基板の損傷および薄膜/基板界面の混合を無くし,比較的低温で薄膜の結晶性を改善させることが可能となる点で応用上非常に有用である。 この現象を詳細に調べるために,現在,重イオン低エネルギー照射前後のAg薄膜について,透過型電子顕微鏡を用いて断面観察するための試料を作製中であり,電顕観察を次年度の主な実験とする。 また,X線回折による構造解析も併せて行う予定である。
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