研究概要 |
クロム基合金はかつて耐熱性・耐食性材料として期待され,たとえば,クロム-ニッケル溶製合金の力学的性質についての研究は1970年代始めまで精力的に行われてきた.しかし,クロムを60mass%以上含む高クロム-ニッケル合金を溶製することは,クロムの融点が高いために,坩堝の耐久性と坩堝からの不純物混入が問題となって困難であった.そのため,ボタン溶解などした小片を用いることを余儀なくされた上に,高クロム-ニッケル合金は加工性が悪いため,辛うじて加工した合金から採取した試料も量的に少なく力学的性質の系統的な研究はきわめて制約されていた.ところが,十数年前からアーク溶解法やゾーンメルト法などの溶解技術の進歩や熱間等方加圧技術(HIP)などの周辺技術の開発が見られ,高クロム-ニッケル合金の溶製品やほぼ真密度のクロム粉-ニッケル粉焼結材の作製が可能になった.このことは均質な実験試料を多く用意できるようになったことを意味する.そこで,本研究ではHIPによりクロムを多く含むクロム粉-ニッケル粉焼結材とクロム粉-モリブデン粉一鉄粉焼結材を作り,それに圧延と焼鈍を繰返し施す一種の加工熱処理によって各焼結材の合金化を試みている.これまでに得られたおもな結果をまとめると以下のようになる. (1)クロム粉一ニッケル粉焼結材について,加工熱処理した材料の強度と延性を広い温度域にわたって引張り試験によって調べた.本研究の結果によれば,高クロム-ニッケル合金は195Kにおいても十分な延性をもっており,構造用部材として実用しうる可能性をもっていることが明らかとなった.(2)クロム粉一モリブデン粉一鉄粉焼結材について,HIPの条件を見いだしたのち組織観察を行った結果,クロム粉一ニッケル粉焼結材と同様に各金属粉が混在していることがわかった.
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