21/4Cr-1Mo鋼材より溶接熱サイクル再現装置(本研究室に既設)により再現HAZ試験片を作製し、研究室既設の電気抵抗炉によりこの鋼材で通常行われるSR処理温度(975K)で時間0.1〜500hrの範囲で焼もどしを行った。この焼もどし試験片を小型シャルピー衝撃試験(容量98J、研究室に既設)を用いて衝撃試験を実施し、吸収エネルギーによるエネルギー遷移温度を求めた。 衝撃試験結果より、種々の焼もどし時間でのエネルギー遷移温度の変化を検討した結果、10hr以上でエネルギー遷移温度は上昇しはじめ、この時点よりSR脆化が生じることがわかった。 さらに、走査型電子顕微鏡(SEM、研究室に既設)により破面および組織観察を行った。SEMと本研究補助金で購入したSEM画像ファイリングシステムを複合化したSEM画像処理装置を用いて、これらの画像を処理することによって破面(へき開破面)上、組織中の炭化物の数、粒径および組織中のフェライトの形状、面積を定量的に検討した。この結果、SR脆化が生じた試験片では単位面積(5×5μm)あたりの炭化物数は組織中よりも破面上の方が多くなることがわかった。粒径に関しては組織中の炭化物の平均粒径は焼もどし時間が長くなるとともに、0.35μm(10hr)から1.3μm(500hr)まで著しく増大するのであるが、破面上の炭化物の平均粒径は0.3μm(10hr)から0.6μm(500hr)であり、組織中の炭化物のような著しい増大は見られなかった。フェライト結晶粒は975K以下の焼もどし温度では焼もどし直後のHAZ組織のラス状マルテンサイトの形状を継承して徐々に成長するのであるが、SR脆化が生じる領域では炭化物と同様に粒径(面積)の著しい増大が見られた。また、フェライト結晶粒径の縦横比の検討より、SR脆化発生直後はフェライト粒はマルテンサイトラスの方位に沿って成長するのであるが、焼もどし時間が長くなると多角形に成長することがわかった。
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