平成9年度の研究結果より、SR脆化発生温度-時間領域を明らかにすることができた。さらに、SR脆化発生領域では析出炭化物およびフェライト結晶粒が顕著な粗大化がみられた。本年度は、走査型電子顕微鏡(SEM)およびSEM画像処理装置を用いてSR脆化におよぼすフェライト結晶粒および炭化物の粗大化の影響について検討した。 焼もどし温度975Kでは時間順に短時間側から短時間型焼もどし脆化、脱脆化状態、SR脆化が生じる。これらの領域で切断面の顕微鏡組織において単位面積(5μm×5μm)内で観察される炭化物数と破断面上で単位面積内に観察される炭化物数を比較した。その結果、短時間型焼もどし脆化および脱脆化状態が生じる領域では、切断面上の炭化物は破断面上にくらべて多く観察されたが、SR脆化発生領域ではその関係が逆転し、破断面上に多く観察された。すなわち、SR脆化発生領域では、粗大化した炭化物はきれつの起点となるものと考えられる。また、EDX分析による炭化物中のCr、MO濃度の測定および膿回折実験による析出炭化物の同定の結果より、これらの炭化物はM_7C_3およびM_<23>C_6化物であることがわかった。 またフェライト結晶粒の粗大化の影響について、破断面(へき開破面)を構成する破面単位(ファセット)の平均面積について調べた。その結果、SR脆化が生じはじめるとフェライト結晶粒の成長とともに、破面単位の顕著な増大がみられた。これは、フェライト結晶粒の成長にともない、きれつが結晶粒内を伝播するためのエネルギーが低下したため破面単位が増大したものと考えられる。 これらの実験結果より、SR脆化は炭化物およびフェライト結晶粒の粗大化に起因するものと思われる。
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