1.後処理温度の影響 溶射後の試料に対して200〜800℃の温度範囲で空気中で3時間熱処理を行った。200℃及び300℃の結果から、これらの温度で3時間熱処理を行っても、X線の強度が低く、コーティングの組成は溶射直後のとほとんど変化していないことが分かった。400℃の場合、X線の強度がやや大きくなり、ハイドロキシアパタイトのピークもより明瞭に現れた。一方、500℃〜800℃の場合、X線強度が強く、ハイドロキシアパタイト粉末のX線パターンとほぼ一致していることが分かる。このことから、500℃以上の温度で3時間熱処理によりコーティング層の組成をハイドロキシアパタイトに回復させることができると考えられる。SEM写真から、処理温度が高くなるにつれコーティング層はより緻密なものになったことが明らかになった。 2.後処理時間の影響 200℃と300℃の場合、X線回折パターンは3時間熱処理を行った時のとほぼ同様で、熱処理時間の延長による改善が観察されなかった。一方、400℃の場合、3時間の結果と比べ、ハイドロキシアパタイトX線ピークの強度が強くなったが、やはり完全回復には至っていない。以上のことから、コーティング層組成のハイドロキシアパタイトへの回復過程は主に熱処理温度に左右されていることが明らかとなった。熱処理時間の影響は非常に小さいと思われる。 3.後処理雰囲気の影響 同じ温度及び時間で処理時の雰囲気を空気から乾燥したArに変え、熱処理を行った。500℃、600℃及び800℃の乾燥したAr雰囲気中で3時間熱処理を行った試料のX線回折の結果から、X線パターンはハイドロキシアパタイト粉末のと一致し、回復が見られた。このことから、乾燥したAr雰囲気中でも500℃以上の温度で熱処理をすれば、コーティング層の組成がハイドロキシアパタイトに回復したことが分かった。従って、コーティングの回復は化学反応によるものではなく、主に再結晶によるものであることが明らかになった。
|