本年度は、回転環状連続置換展開クロマトグラフィーの分離性能の解析に必要な基礎物性値である、タンパク質のイオン価およびタンパク質水溶液の粘度の測定を行なった。モデルタンパク質として、牛血清アルブミン(BSA)と牛血ヘモグロビン(Hb)を選択した。pHによるタンパク質のイオン価の変化は滴定法により測定した。測定対象のタンパク質に、塩濃度調整用の塩化ナトリウムおよびpH調整用の塩酸を混合し、その溶液を水酸化ナトリウムにより滴定してpHの変化を測定した。pHの測定値より、混合溶液の電荷収支式を用いてタンパク質の平均イオン価を算出した。両タンパク質についての測定値を、Linderstrφm-Langの式による計算値と比較したところ、特に等電点付近で、大きな誤差が生じていることが明かになった。Linderstrφm-Langの式の、アミノ酸残基間の電気的相互作用を表わす項をパラメータとして実験値と計算値のフィッティングを行なったところ、特にHbにおいて、Linderstrφm-Langの式によるものよりも大きな相互作用が生じていることが示唆された。次に、塩化ナトリウム、塩酸、水酸化ナトリウムにより塩濃度およびpHを調整したタンパク質水溶液の粘度をオストワルド粘度計により測定した。溶液の相対粘度は、pHが一定の場合、タンパク質の濃度と広い範囲でほぼ比例関係にあることが見出された。一方、pHを変化させて測定したところ、Hbでは、強酸性領域で大きな粘度が得られ、以下等電点まで粘度は単調に減少し、アルカリ領域までほぼ一定値となった。それに対してBSAでは、粘度は等電点で極小値をとった後、アルカリ領域で再び増大した。等電点付近でタンパク質の粘度が最小値をとるのは、タンパク質分子への溶媒和が最小となるためであると思われる。BSAでアルカリ領域の粘度が増大するのは、同タンパク質がアルカリ領域で解離するアミノ酸残基を多数持っており、溶媒和が大きいためであると思われる。次に2成分タンパク質混合溶液の粘度を測定したところ、両タンパク質の等電点の中間のpHで、異常に高い値が測定された。これは両タンパク質の会合が原因であると思われる。
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