近年工業の発達や地球人口の増加による物質・エネルギーの大量消費に伴い、窒素酸化物による環境汚染が深刻化しつつある。本研究はこれらの有害な窒素酸化物を微生物の機能を利用して無害な窒素に変換することを目的としている。現在我々はParacoccus denitrificansより脱窒の第2ステップを担う亜硝酸還元酵素の遺伝子(nirS)のクローン化に成功しており、またその近傍のDNAのクローン化にも成功している。nirSの上流約3kbにおいては酸化窒素還元酵素(norCB)の遺伝子が存在するが、本年度はこのnirとnorの間の領域の塩基配列決定およびこれらの脱窒系遺伝子群の発現パターンの解析を行った。塩基配列決定の結果、nirとnorの間には機能未知の遺伝子ORF1及びORF2が存在することが判明した。ORF1はホモロジー検索の結果、亜酸化窒素還元酵素遺伝子群を制御するNosRと相同性を示しており、膜結合ドメイン、 DNA結合ドメイン、及び酸素センサー蛋白のFnrにみられるシステインクラスターが存在することから、外部の環境に応じて脱窒遺伝子の発現を制御する制御蛋白と思われた。続いてこれら脱窒遺伝子群の発現パターンをノーザンブロッティングを用いて調べたところ、nirやnor遺伝子群の発現は嫌気条件下で硝酸存在下において顕著な上昇を示した。好気条件下においても硝酸存在下では発現は観察されたが、nir及びnor遺伝子のオペロン全体の発現は嫌気条件下のみでしかみられなかった。このことは脱窒系酵素の機能発現にはオペロン全体の発現が必要であることを示唆しており、norCBのみを大腸菌に入れただけでは酸化窒素還元酵素活性が発現しないという事実を裏付けるものであった。一方、ORF1の発現は構成的であり、この蛋白がセンサーであることを考えると常に外部の環境を認識する必要上、その発現の特徴は理にかなっているものと思われる。
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