本研究の目的は、生体内一酸化窒素(NO)の検出および画像化のためのNO蛍光プローブ分子の開発である。平成9年度は、グアニル酸シクラーゼ活性中心へのNOの結合と酵素活性化のメカニズムをモデルとした新規NO蛍光プローブモデルを種々設計し、合成した。これらの比較から、NOの捕捉と、これにより蛍光変化を生じさせるための分子構造の最適化や種々の因子を明らかにした。その結果、環状配位子であるサイクラムにキノリンをリンカーアームを介して導入した化合物の鉄(Il)錯体が、非常に良好なNO捕捉能を有し、しかも、NOの結合により蛍光強度が大きく変化することを見出した。この蛍光変化は、NOの濃度に依存し、NO発生剤からのNO発生速度に完全に相関した。また、生体内でのNO代謝物である亜硝酸イオンや強力な鉄への配位子であるシアンイオンによっても全く影響を受けなかった。このプローブは、uM程度のNOまで蛍光検出定量が可能であった。また、この鉄錯体自体は、通常の鉄錯体とは対照的に強蛍光性であり、NOはこの蛍光を減少させた。種々の検討から、鉄による蛍光増強の効果は、キノリンの鉄への配位と、キノリンのベンジル位に存在するサイクラム環の窒素上の孤立電子対と遷移状態でのキノリンとの相互作用を鉄が減弱する事が関係することを見出した。これらの検討結果より、NO捕捉により蛍光が減少するのではなく、波長がシフトするより実用的なプローブとして、リンカーアームの長いプローブや、より高感度な、蛍光量子収率の高い誘導体を設計することが可能となった。モデル分子を用いての種々の生体成分やNO関連物との反応を検討した結果は、おおむね良好であり、これらの分子は、非常に実用的な高性能NOプローブとなることが期待できる。
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