1.温度感応性高分子の合成と凝集条件の検討:種々の分子量の温度感応性高分子ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)を合成し、水溶液における凝集条件を調べたところ、凝集の始まる温度については分子量依存性がみられなかったものの、分子量が大きな高分子ほど小さな温度幅で凝集が完了した。本高分子は全pH領域で凝集するものの、pH<2においては、凝集性が低下した。また、コンパクトな凝集相を得るためには、塩の添加が必要不可欠であり、非荷電高分子であるPNIPAAm中の形式電荷の存在が示唆された。高分子水溶液中に微視的環境プローブを可溶化したところ、プローブの蛍光スペクトルから、水和した高分子が周囲の水に比べて疎水的な場を提供し、そこに疎水性化合物が取り込まれていることが示された。 2.金属キレートの抽出と定量条件の検討:高分子凝集相には多くの疎水性金属キレートが効率的に捕集された。なかでも重量分析試薬として知られる8-キノリノールの金属キレートは錯形成および捕集ともに良好な結果を得た。この系を黒鉛炉原子吸光法の前濃縮に応用したところ、他元素の妨害がほとんどなしに、100倍程度のコバルト錯体の濃縮を達成した結果、飲料水中のコバルトイオン濃度を定量できるようになった。一方、水溶性の荷電金属キレートはそのままでは凝集相にほとんど捕集されないものの、適当な対イオン共存下で凝集相に効果的に捕集されることが明らかになった。対イオンの選択によって、バソクプロインスルホン酸や水溶性ポルフィリンなど、吸光分析法で用いられる多くの金属キレートを凝集相に抽出することができた。現在、捕集条件の最適化を検討しているが、金属イオンに関するサブppbレベルの吸光分析およびサブpptレベルの高速液体クロマトグラフ/吸光分析が可能になる見通しが得られた。
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