本研究では非磁性物質からなる系の強磁場に対する応答に関して現象の観測と解明を行うことを目的とし、その対象として、水への酸素の溶解過程及び、水溶液中での電解質の移動現象を選んだ。 水への酸素の溶解現象に関しては、これまでに、脱ガス処理を行なった純水中に酸素が溶解して行く過程を4T程度の磁場下において観測したところ、溶存酸素の平衡濃度には影響が見られないものの、溶解過程が加速する現象を見出してきた。今年度は、条件をコントロールした詳細な実験により、この現象の再現性を確認し、確立することができた。また、実験条件に即して理論的考察を行ない、この現象は、酸素が溶解して行く際に水中に生ずる溶存酸素濃度の不均一と磁場の不均一が複合してはたらく磁気力によって、内部に対流が生じるために引き起こされたものである可能性を示唆することができた。現在、これを裏付けるための実験を検討している。この結果は、この系に限らず広く一般化できる可能性があり、化学的プロセスや生物現象への波及効果が期待できると考えられる。 水溶液中での電解質の移動現象に関しては、これまでに、濃度の異なる電解質水溶液を膜を介して接触させたところ、周囲の磁場分布に依存してその物質移動速度が制御されたり促進されたりする現象を観測してきた。しかし、本研究で用いた実験系の場合、拡散や流動といった複数の物質移動過程が共存していると考えられ、その現象は単純には解析できないことが分かった。そこで、現在、それらを個別に評価できるような実験系の構築を目指している。
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