タングステンを過酸化水素水と反応して得られる非晶質の過酸化ポリタングステン酸にシュウ酸又はマロン酸を配位させた。配位子量m(=C_2O_4^<2->/W or CH_2C_2O_4^<2->/W)は、いずれも0.3程度が上限であった。m〜0.3がジカルボン酸の上限であると推測される。 試料の水溶液からスピンコートにより、膜厚3000〜6000Åの範囲で亀裂のない良質な膜が得られ、80℃で4時間熱処理を行った後、温度及び湿度制御下において交流インピーダンス測定によりプロトン伝導率を求めた。 導電率はシュウ酸モル比m(=C_2O_4^<2->/W)により、指数関数的に増大した。各シュウ酸モル比試料のアレニウスプロットはよい直線性を示し、見かけの活性化エネルギーはシュウ酸量の増加に伴って低下し、シュウ酸モル比が0.15を越えるとシュウ酸量に対して大きく低下した。過酸化物基の定量及び赤外吸収の結果から導電率の増大はポリアニオンの重合の阻害によることが明らかとなった。 ポリアニオンの重合を抑えることでプロトン伝導が向上するため、よりかさ高く大きな配位子のマロン酸配位子の場合さらに大きな効果が望める。マロン酸の場合、m<0.1では、重合は阻害されるが活性化エネルギーがmにあまり依存しない領域であるため、マロン酸とした効果は見られず、シュウ酸配位子の場合と同程度の導電率を示し、m>0.15では重合の阻害により活性化エネルギーが小さくなる領域であるため、マロン酸による顕著な効果がみられ導電率の向上(一桁程度)が見られた。一方、さらに大きなm(>0.3)では再び両者の配位子とで導電率は近い値となった。これは、いずれの配位子の場合でも、ポリアニオンの重合をほぼ完全に抑える結果であり、弱酸の配位子では、配位子が導電に寄与していないことを示唆する。したがって、強酸の配位子を配位させることにより、さらなる導電率の増大が期待される。
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