本研究では、キャッサバ、ウメ、アンズ、タケノコなどの食用植物中に含まれ、急性・慢性食中毒の原因と成っているシアン配糖体に対する、高感度・高選択性・安価かつ簡便な全個体型センサーの開発・評価を目的とした。グラファイト電極上にペルオキシダーゼを化学吸着により固定化し、その上にβ-グルコシダーゼを架橋して固定化した。このβ-グルコシダーゼによりリナマリン、アミグダリンなどのシアン配糖体が分解され、遊離されたシアンがペルオキシダーゼの活性部位に可逆に結合し、その過酸化水素還元触媒能を阻害する。この触媒能を電気化学的方法(アンペロメトリー)により測定し、その減少率に基づいてシアン配糖体の定量を行うことができた。こうして得たセンサーをさらに小型化・薄層化するためには、通常のグラファイト電極にかえて、グラファイト粉末とポリマーバインダーからなるグラファイトコーティングを用いる必要が生ずる。そこで、グラファイトコーティング上におけるペルオキシダーゼの反応速度論についても調べた。その結果、ペルオキシダーゼの、過酸化水素との反応速度定数は通常のグラファイト電極を用いた場合と同じ程度だったが、グラファイトコーティングからペルオキシダーゼへの電子移動反応速度定数は、通常のグラファイト電極の場合より小さくなることが明らかになった。しかし、コーティングに含まれるバインダーの割合を減らすことにより、速度定数をある程度高められることがわかった。
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