本研究では、紫外-可視領域に吸収帯のない光学活性化合物の電気化学反応に伴う構造変化速度を追跡する手法を開発した。すなわち、サイクリックボルタンメトリー、ポテンシャルステップクロノク-ロメトリー等の電気化学測定と旋光分散(ORD)スペクトルを同時に測定する旋光分散電気化学法でありこの手法によって、反応中間体の存在およびその速度論的解釈が可能となる。 単糖類、ニ糖類、三糖類の糖類をアルカリ溶液中で銅電極を用いて酸化した。生成物はHPLCによって分離・同定した。単糖類に着目するとアルドース(アルデヒドアルコール)類の糖の場合、蟻酸の電流効率はほぼ100%であったが、ケトース(ケトアルコール)類のそれは約80%となり、糖の構造に差が生じた。糖から蟻酸が生成するためには糖分子中の炭素・炭素結合の切断が必要となる。アルドース分子から生じたC1分子は水酸化物イオンとの酸化反応により6分子の蟻酸になるが、ケトース分子から生じるC1分子の内、ケト基によるC1分子はその酸化状態から蟻酸に至らない。従ってケトースの電流効率はアルドースの約5/6になるものと考えられる。 旋光分散電気化学法によってグルコース(アルドース)とフルクトース(ケトース)の酸化過程を追跡した。予想していたよりも得られる信号のS/N比がかなり悪かったため数千回の積算を行った。しかしながら、中間体の存在あるいは2種類の糖類の酸化過程の差を明確に示すようなシグナルは1秒というタイムスケールの中では現在のところ得られなかった。より短い時間領域での測定と更なるS/N比の向上のための改良が必要であることが判明した。
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