前年度の検討より、アンチモン(V)テトラフェニルポルフイリン錯体の軸配位子交換反応において臭素配位子(ブロモ基)から水酸基への熱反応による交換過程に焦点を絞り、ポルフィリンの構造変化及び溶媒効果の面からアンチモン(V)ポルフィリン錯体上の臭素配位子の置換活性を検討した結果、ブロモ基から水酸基への軸配位子交換反応において、反応溶媒、基質濃度等の最適な反応条件を明らかにすることができた。本研究ではまず、光照射による同様の軸配位子置換反応が可能かどうか検討した。その結果、アンチモンテトラフェニルポルフィリン錯体の臭素配位子から各種アルコキシド誘導体及びフエノキシド誘導体への置換反応が容易に進行することを明らかにした。次に本研究の目的であるハロゲン化アルキルとの光求核置換反応を介した転位反応について検討を行った。ハロゲン化アルキルとしては1-シクロプロピルメチルブロマイドを用いた。反応溶媒は脱水アセトニトリルを用い、可視光照射(>400nm)することにより行った。その結果、用いたシクロプロピルメチルブロマイドの分解、あるいはそれに伴う転位生成物の生成は認められなかった。また、ポルフイリン錯体にも変化は見られなかった。このことは臭化アルキルの場合ではアンチモン原子に対して十分な求核剤として作用しないことを示している。そこで、1-シクロプロピルメチルアルコールを用いて光反応を行ったところ、軸配位子の置換反応が進行し、シクロプロピルメチルアルコールを軸配位子とするポルフイリン錯体が得られたのと同時に、興味深いことに転位生成物と考えられるシクロブチルアルコールを軸配位子とする錯体も得られる結果を得た。このことは軸配位子がアンチモンへ求核攻撃する際に、シクロプロパン環上に正電荷が発現して転位したと考えられる。
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