研究概要 |
精密な認識と協調によって達成される生体系の基本は分子情報の保存・処理・信号化であると考えられる。とりわけ不斉分子情報に関する知見の集積は医薬品における薬効や毒性を探るうえで重要である。本年度は、合成した不斉認識型人工光学レセプターの光学活性アミノ酸誘導体に対するエナンチオ選択性を検討した。 キラルユニットとして1,1'-ビナフチル基を、また光学応答部位としてインドフェノール系色素を二つ有する標題のカリックス[4]クラウン型人工レセプター(1)は多段階合成を経て得られた。そしてアミノ酸誘導体であるフェニルグリシン(2)を用いてその機能評価をおこなった。実験は、2がエタノールに難溶であるため、固-液抽出法を用いて1のエタノール溶液に2を分配させる方法をとった。その結果、(R)-2を分配させた場合の色調の変化が(S)-2のときに比べ20nmの長波長シフトと500〜600nm付近の吸収強度の増大によってもたらされていることがわかり、そのエナンチオマー対を肉眼で識別できることに成功した。そこで,これらの結果が2の選択的抽出能に関連しているかどうか調べるために,レセプター(1)によって有機層に抽出されてくる2を光学活性カラムを用いたHPLCによって定量することを試みた。興味深いことに、1の存在で明らかに(R)-2の抽出量が増し、顕著なエナンチオ選択性を示した。そして(R)-2抽出量の濃度依存性の測定から、1:(R)-2錯体の会合定数は383±15dm^3mol^<-1>となった。以上の結果は(Y.Kubo,N.Hirota,S.Maeda and S.Tokita,Anal.Sci.,14,183(1998))に掲載された。
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