本研究では、有機電極反応における支持電解質の果たす役割とその重要性に着目し、光学活性支持電解質を分子設計、合成すると共に、それを用いた電気化学的酸化還元反応により、エナンチオ選程的な不斉合成反応を開発することを検討した。前年度はメタノール中、D-カンファースルホン酸ナトリウムを用いてエノールエステル類及びウレタン類の電極酸化不斉メトキシ化反応について検討したが、効果は見られず、溶媒にアセトニトリルを添加した場合は塩の溶解性が低下するなどの問題点が出たため、カンファースルホン酸テトラエチルアンモニウムを合成した。今年度はまずその塩の収率の向上を検討し、精製収率42%まで向上させることができた。 酢酸中におけるテトラロンエノールエステルのアセトキシ化反応ではα-アセトキシ化物とα-アセトキシナフタレンの混合物が得られたため、支持電解質に酢酸ナトリウムを添加して反応を行ったところ主生成物としてα-アセトキシ化物を得たが、その不斉導入率は1%前後であった。一方、還元反応に有効であることが期待される第四級アンモニウムイオンの合成に着手し、二つの三級窒素原子を有するキニーネのエチルp-トルエンスルホネートによるモノエチル化四級塩を合成することができた。しかし、スパルテインの四級塩の合成は容易ではなく、選択性、収率が悪く四級塩を得ることはできなかった。そこでキニーネ由来の支持塩を電極還元反応と同じ電子移動型反応であるMg金属還元法による芳香族アルデヒドの還元反応に適用することを試み、反応系に基質と当量の塩を添加して反応を行ったところ、塩が存在しない系と同様に反応は進行したが、その不斉導入率は同様に1%前後にとどまった。さらに、キニーネの四級アンモニウム塩は電極還元反応に有効なDMFに溶解性が悪く、新たな第四級アンモニウム塩の調製が必要であることも明らかになった。
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