これまで細胞と人工材料との相互作用において細胞接着面となる材料表面の化学的性質が検討されてきた。しかし、材料そのものの表面構造も細胞接着及びその後の挙動に影響を与えうることが最近指摘されている。本研究代表者は高分子の自己組織化を利用することによりメゾスコピックパターンを有する種々の高分子ヰャストフィルムの作製に成功した。例えば、両親媒性ポリマーの希薄溶液を高湿度下でキャストすることによりサブマイクロメートルの線幅のラインからなるハニカムパターンフィルムが得られる。本研究代表者は、これらメゾスコピックパターン化フィルムの生体適合性材料としての可能性を調べることを目的に研究課題「自己組織性多糖のメゾスコピックパターニング」を遂行している。今年度は、表面形状としてハニカムパターンを有する両親媒性ポリマーキャストフィルムの作製とその構造評価を引き続きおこない、さらにはハニカムフィルム上での細胞培養を検討した。その成果を以下に列挙する。 1. 両親媒性ポリマーとして2種類のポリアクリルアミド誘導体を新規に合成した。これらポリマーは細胞接着性リガンド導入部位として活性エステル基あるいはビオチニル基を有する。これら反応性部位を介して細胞接着性リガンドをハニカムパターン上に固定化することが可能になった。 2. ハニカムパターンフィルムの膜厚の制御が可能になった。従来はガラスなどの固体基板上に直接ポリマー溶液をキャストしていたが、新たに水面上でのハニカムフィルム作製を試みた。その結果、膜厚が下水層温度に依存することを見出した。ハニカムの穴の直径が5μmで、膜厚がそれぞれ0.2μm、5μmの2種類のフィルムを得た。 3. 種々の両親媒性化合物より作製したハニカムフィルム上で牛大動脈由来血管内皮細胞を培養した。フィルム上での細胞接着、伸展が観察され、ハニカムフィルムが細胞培養基材として機能することが明らかになった。 以上、本研究課題では、両親媒性ポリマーの自己組織化を利用したメゾスコピックスケールの表面パターンを持つ薄膜材料の作製を行い、この材料表面の化学的性質とフィルム構造の制御、さらには人工細胞外マトリックスとしての可能性を示すことができた。今後は、このハニカムフィルムの人工細胞外マトリックスとしての設計指針を得る方向で、細胞接着性、細胞機能の発現に影響する因子を検討する。
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