研究概要 |
これまでに、ターゲット分子と相補的な位置に水素結合サイトを持つ人工レセプター分子が数多く合成され、クロロホルムのような非プロトン性溶媒の中で効果的な分子認識能を示すことが報告されてきた。しかし、これらのレセプター分子も、水溶液中では、水分子が水素結合サイトに対して競争阻害を起こすために十分に機能しない。我々は、高分子内に形成される疎水場の活用によるこれらの問題の解決を目指した。その結果、ジアミノトリアジンを側鎖に持つポリ2-ビニル-4,6-ジアミノトリアジン(PVDT)が、水の中でも、相補的な水素結合を効率的に形成し、基質を高選択的に認識することを見出した。すなわち、一連の核酸塩基の中で、ジアミノトリアジンと3本の相補的水素結合を形成するウラシルおよびチミンのみがPVDTにより強く吸着される。それに対して、水素結合サイトが2箇所のシトシンおよび1個所のピリミジンの吸着は極めて低く、ゲストとの相補的水素結合サイトの数との良好な対応が認められた。更に複合体形成に際して、ウラシルのカルボニル基の伸縮振動は10-20cm_<-1>だけ低波数側にシフトしたことから、水素結合生成により基質認識が行われていることが確認できた。高分子場の疎水性を高めることを目的として、PVDTのジアミノトリアジン残基と主鎖の間にベンゼン環を導入した高分子レセプター(PVATS)を合成したところ、シトシンの吸着はPVATSとPVDTの間でほとんど差がなかったのに対してPVATSはチミンをPVDTの倍以上強く吸着した。このことから、水中での相補的水素結合の形成には、認識部位周囲に疎水的な高分子場の形成が重要であることが明らかとなった。
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