研究概要 |
本研究では、ポリラジカルでの強固な磁気的結合を実現するため、アントラセンなど共役ラダーオリゴマーに複数の安定ラジカルを導入した擬二次元的なスピン連結構造の構築を目的としている。今年度は一次元方向のスピン連結構造を確立するため、アントラセン骨格をエチニレンで結合したステップラボ-ポリラジカルを合成し、その磁気的性質を検討した。 1.フェノキシル置換したアントラセンについて半経験的分子軌道計算を実施し、2-フェノキシ置換アントラセンでは、アントラセン骨格まで充分なスピン分布が生じることを算出し、2-(2,6-ジ-t-ブチルフェノキシル置換ポリ(9,10-アントリレンエチニレン)を分子設計した。 2.o-フタルアルデヒド酸を出発物とし、2-ブロモアントラセンを合成し、さらにニッケル錯体触媒を用いたクロスカップリング反応によりフェノール残基を導入した。続く臭素化およびパラジウム錯体触媒を用いたアセチレンカップリング反応により、9-ブロモ-10-エチニルアントラセン誘導体を合成した。このモノマーをさらにパラジウム錯体触媒により自己重縮合することで、分子量数千におよぶ対応する紫色のポリマーが得られた。得られたポリマーのトルエン溶液に活性二酸化鉛またはフェリシアン化カリウムアルカリ水溶液を作用させることで、室温でも比較的安定なポリラジカルを得ることができた。 3.対応するモノマーラジカルの溶液ESRスペクトルでは、複雑な超微細構造が観測され、スペクトルシミュレーションから算出した超微細構造定数は、半経験的軌道法計算の値とほぼ一致した。また、より明確な超微細構造を観測するために合成した、一つ置きにフェノール残基を有するポリラジカルでは、モノマーラジカル同様に複雑な超微細構造を示し、主鎖のアントラセン骨格までスピン分布していることを示唆した。一方、高スピン濃度のポリラジカルでは、ラジカル局所の濃度の増大により超微細構造が消失し、g=2.0044にフェノキシラジカル由来の単峰性のジグナルを示したのみであるが、77Kのトルエングラス中のESRスペクトルではg=4に三重項スペクトルが観測された。また、SQUIDを用いたポリラジカルの磁気測定からも平均スピン量子数S>1/2の結果が得られ、ポリラジカル分子内での強磁性的な相互作用が確認できた。
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